キラリ!見つけた

7月のある日突然、佐々木小世里さんから取材の申し込みのお電話がありました。北海道新聞に連載中の「キラリ!見つけた」で中頓別町を訪問するので黄金湯も取り上げたい、というお話しでした。中頓別町にはお父様のお仕事の関係で子供時代を過ごした事があるそうです。中頓別町にご縁のある方の取材は初めてでした。

佐々木さんは、終始「嬉しそう」な明るい雰囲気が漏れ出すような瑞々しい女性でした。わずかな時間にロビーのお客さんと屈託なく会話しながら、そのお客さんがご自分の同級生のお父さんだったと判明させる鳥肌ものの超能力も披露。全く不思議な人でした。

そして彼女の書いた黄金湯の記事がさらにもうひとつの出会いの物語を産み出したのです。

9月の末に北海道新聞の生活欄に掲載された「キラリ!」を見て、浜頓別で単身赴任中の某氏は「薪で沸かす銭湯」とはどんなものか?と隣町の黄金湯へ興味を抱いてくださいました。開湯に少し早い午後3時ごろ黄金湯の玄関でひとりの入浴客に手を貸してた私に営業時間をお尋ねになりました。

「いつもは4時からなんですが今日はもう沸いていますよ。このお客さま、最近体調を崩されて今日は10日ぶりのお風呂なのです。私がお手伝いしながらお湯に浸かっていただくつもりで普段より早く沸かしたんですが。そんな訳でもし私が洗い場をウロウロするのがお気に掛からなければ、どうぞご一緒にお入りください」

某氏はためらう様子も無く「じゃあ私がこの方とご一緒しますので、早い時間で申し訳ありませんが入らせてください」と言い、「ご一緒させてくださいね」とそのちょっと危なっかしいお客さまと一緒に男湯の湯気の中へ入っていきました。洗い場をウロウロする予定だった私は心配で脱衣室でオロオロするばかり。でも、浴室から聞こえてくるのはおじいさんと孫息子が仲良く入浴しているかのように穏やかで楽し気な話し声と笑い声。うん。大丈夫かな…

30分ほど経ちお風呂からあがってきたお二人の満足そうな表情は、お二人の入浴がいかにくつろげる温かなものだったかを雄弁に語っていました。いいなぁ、銭湯は。こうでなくっちゃ!

入浴後、ご自宅までの車の中で「世の中には親切な若い人も居るもんだ。久しぶりに中頓別の昔話をしたよ。楽しかった。」と本当に嬉しそうに話しておられたお客さま。お風呂をご一緒してくださった某氏もきっと、モチロン私も、キラリ!見つけたのです。

とても残念で悲しい事でしたが、その日のご入浴がそのお客さまの人生最後の黄金湯になってしまいました。でも、あの穏やかな秋の日のお風呂のひとときのご様子は、今でも私を幸せな気持ちにさせてくれます。

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キラリ!見つけた への5件のコメント

  1. 小世里さん より:

    なんて、すてきなお話なんでしょう。こういう由起子さんの「おいで、おいで。いいよ」という、懐の大きさが、次々とすてきな話に変わっていくんですよね♡それに誘われたのも、私ですし、前段のくだり、すてきにご紹介していただきありがとうございました。由起子さんの思いを伝えるにはあまりにも小さなスペースすぎましたが、出合えたことを大事に思っています。あの、超狭な待合室のミラクルをこれからも楽しみにしています。心の原風景だった中頓別に、訪ねられる場所を作って下さり本当にありがとうございます♡

    • 黄金湯主人 より:

      小世里さん
      早速のコメントをありがとうございます!
      砂金より小さな黄金湯の「キラリ」を見つけてくださって、ほのぼの暖かいイラストに描いてくださって、本当に嬉しかったです。
      某氏をあのタイミングで黄金湯へ向かわせる魔法も…助かりました。
      いつでもここへお里帰りなさってください。小世里さんとの出会いは始まったばかり。私もこれから先の展開(ミラクル?)を楽しみにしています!!

  2. リズさん より:

    おふろには、お風呂なりの、歴史、その人の人生があるんだね

    • 黄金湯主人 より:

      リズさん
      いつもコメントありがとぉ。
      そう、人生いろいろ。黄金湯ふろふろ。

  3. ちぃ。さん より:

    何かコメントをしたいと思ったけど、とてもステキなお話に、言葉が出ません。
    少し切ない、でもステキな巡り合わせの連続。
    それぞれの場面を想像すると、とても温かな気持ちになりました。

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